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1 初めての男
1ー1 売れ残りの男娼
俺は、男に貫かれているとき、いつも思い出す風景がある。
魔物の森で1人、さ迷っていた時のことだ。
周囲を凶悪な魔物どもに囲まれて泣いていた俺を魔物の群れから救い出してくれたのは、俺の育ての親である神官のエド・ワイエスだ。
俺は、それから今に至るまでずっと彼の温もりを忘れることができないでいる。
こうして、俺が別の男の温もりを思い出していることも知らずに、男たちは、俺の中に精を吐いて欲望を消化する。
だが、俺が達することはなかった。
男たちは、俺を『いかずのセイ』とか、『氷の男』とか呼んで誰が最初に俺をいかせるかで賭けをしているらしい。
別に、感じない訳じゃなかった。
ただ、なんとなく達することができなかっただけだった。
それは、俺がオメガではなくベータだからかもしれない。
もともと男に抱かれるために生まれてくるオメガならきっと、もっと違っていたのかもしれない。
だが、俺は、ベータだった。
この売春宿の主人であるライナスは、男娼になるものには、ベータが多いと言っていた。
そして、男娼を買う客もまた、ベータが多かった。
生むことも、生ませることもないもの同士慰め会うのが俺たちの性だった。
といっても、俺は、1人で夜を過ごすことの方が多かった。
年取った男娼なんて、慰めてくれる者さえいない。
俺は、1人で夜の街を歩くようになった。
みな、俺が通ると、かわいそうな売れ残りのセイが今夜も歩いている、と噂するのだ。
俺がそいつと出会ったのも、そんな1人っきりの夜のことだった。
その男は、夜更け過ぎに店に現れた。
もう、そろそろ店が閉まる頃で、酒場に残っている男娼は、俺だけしかいなくて俺は、1人で店を片付けていた。
2階では、今夜も愛や恋の駆け引きが行われていたけど、俺には、関係がなかった。
俺が思っていたことは、晩飯の焼き肉が固かったせいで腹が重い感じがするということだけだった。
俺は、年のせいかその夜もお茶をひいていた。
そのためにさっきまでライナスに嫌みを言われていた。
「ここは、売春宿でね、客のつかない男娼をいつまでも置いてはおけないんだぜ。わかってるのか?セイ」
ライナスの言うことはもっともだし、俺にもよくわかっていた。
俺は、もう、28才だ。
いくら、珍しい黒髪黒目だとはいえ、そろそろこの商売で生きていくのはきつい。
だが、俺は、他にいきる術を知らなかった。もう少し、ここに置いてもらうしかなかった。
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