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5ー2 影
「実に興味深い剣だな、イェイガーとは」
室長が俺が出来上がったポーションを小瓶につめていると話しかけてきた。
「伝説の聖剣、か」
「そんなたいしたことはないですよ、室長」
俺は、黙々と瓶詰めの作業を続けながら、室長に応じていた。室長は、そんな俺を見つめて微笑んだ。
「君も、実に、興味深い存在だ。セイ・イガー」
室長は、俺が作ったポーションの入った小瓶を1本取り上げて窓から差し込む光に透かしてみた。
「こんなに美しいポーションは初めてみた」
はい?
俺は、手を止めて室長を見上げた。
ポーションが美しい?
「ああ、すまない」
室長が笑って答えた。
「私には、鑑定能力があってな。君の作ったポーションは、品質もいいが、何より、込められた念が美しい。最高品質のポーションだ」
マジですか?
俺は、誉められて、すごく嬉しかった。
だから、つい調子に乗ってしまったのだ。
俺は、頑張った。
そして、夕暮れには、ポーションを詰める小瓶がなくなるほどの数のポーションを作っていた。
「すごいですね、セイ」
副室長も俺を誉めてくれた。
少し、呆れ気味な様な気もしたけどな。
「そんなことは、ないです」
「いや、これだけのポーションを作れるとは、すごい魔力量です」
副室長は、ほんとに感心した様子だった。
「でも、あまり無理はしないでくださいね、セイ」
「無理なんて」
俺は、にっこりと笑って見せた。
俺は、その日、研究室のみんなが一週間で作るだけの量のポーションを1人で生産してしまっていた。
だからというわけではないが、明日は、エリクサーの作り方を教えてくれるらしい。
俺は、弾むような気分で1人、後宮への帰り道をたどっていた。
ん?
1人?
俺は、思い出していた。
そういえば、俺、警備の人と一緒だった筈。
俺は、立ち止まって辺りを見回した。
「何やってんですか?セイ様」
どこからか声がして急に目の前に影が現れた。
俺は、驚きのあまり、転びそうになった。影は、俺を支えてくれた。
「も、申し訳ありません」
影は、初めて人間らしい様子を見せて、慌てて俺から身を離した。
「セイ様の玉体に触れてしまって申し訳ございません」
玉体って。
俺は、笑った。
「大袈裟な。いや、俺の方こそ、あんたのこと忘れてた。ごめん」
「いえ、気にしないでください」
影は、にっと笑った。
「ちゃんと、お側にいましたから」
コワッ!
背筋が凍りつく。
全然、気づかなかった!
この人、普段、どんな仕事してる人なわけ?
「なんでしょうか?セイ様」
『いや、主は、お前が普段どんな仕事をしているのか興味があるようでな』
「いやっ!違うから!どんなこと思ってないからね。答えないでいいから!」
俺は、イェイガーの言葉を否定しようとしたが、影は、にやりと笑った。
「普段の私の仕事でございますか?それを知るものは全て」
「いや!本当に、聞きたくないから!」
コワッ!
なんで、アルテミアさん、こんな人に俺の警護をさせてるわけ?
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