1:年上の彼

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

1:年上の彼

 中学一年の時に出会って、好きになった彼は、ふたつ年上。  同じ通学路を通って登下校したのは一年足らずで、彼はすぐに高校へ行ってしまった。  一生懸命勉強して、同じ高校へ追いかけて行ったけど。  やっぱり、一緒にいられる時間は一年しか無かった。 「謙ちゃんはどんどんわたしの先に行っちゃって、寂しいよ」  高校三年のある時、そう洩らしたら、大学二年の彼はやわらかく微笑った。 「でも、今年梨恵が頑張れば、今度は同じ大学で二年間一緒にいられる」  そう言って、赤本でわたしの頭をぽんぽん叩く。 「一年伸びただけじゃん」  ムスっとふてくされてみせると。 「それで僕らの仲が終わっちゃう訳じゃないだろ?」  わたしを映す眼鏡の奥の目が、優しく細められる。 「僕は、梨恵が追いつくのをずっと待ってるから。だから、頑張れ」  ああ、彼のこんなところを。  十三歳のあの夏の日から、わたしはずっと、好きなんだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!