2:おとすよ

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2:おとすよ

 大学受験の合格発表日。  周囲には、喜びの歓声と落胆の溜息が入り乱れている。  そんな中、受験票を手に顔を上げられない、わたし。 「それで、番号は?」  彼の問いかけに、蚊の鳴くような細い答えを返す。 「……おとすよ」 「え?」  眼鏡の奥の目が、不思議そうに見下ろしてくる。 「O-1034。『おとすよ』」  それはそれは不吉な受験番号。  すると彼は苦笑を浮かべて。 「3を『す』に変換するのは、こじつけじゃないかな」  そう言ってわたしの手を引いて、合格者番号がずらりと貼られた掲示板の前へと、ずんずん進んで行った。  うつむいたままのわたしの隣で、しっかりと手を握ったまま、彼がわたしの代わりにO-1034を探す気配がする。  やがて。 「梨恵」  繋いだ手に、込められる力。  おずおずと視線を上げると、彼が指差す先には。  O-1034の文字。 「落とさないよ?」  にこりと微笑む彼。  十数秒の後、ようやく実感が押し寄せて、わたしはがばりと彼に飛びついた。 「受かった。受かったよ、謙ちゃん!」 「うん。よく頑張ったね、梨恵」  彼は優しく抱き返してくれる。 「これから二年間、一緒だよ」 「うん」  目から流れるのは、嬉し涙。 「すっごく嬉しいよ」  口から出たのは、喜びの言葉。
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