1.天使(あまつか)さんと私

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1.天使(あまつか)さんと私

『私、失敗しませんから。』 そう言い放つのは某テレビドラマの女主人公である勇ましい女医である。 どんな難病でも彼女の腕にかかれば、まるで某漫画で有名な無免許医師かのように治療が終わり、めでたしめでたし。 ある意味この疫病で閉塞感のある世の中にピッタリといえばそうかもしれない。 「でも、現実はそう簡単にはいかないのよね…」 と番組が終わり次のニュースの番宣に入ったテレビをオフにしてその主人公と同じ職業を選んだ彼女―依子(よりこ)はぼやいた。 彼女の眼はこの半年間の医師としての激務で、目の下のクマがまるで化粧でもしたかのようにデフォルト状態になっていた。 ここ最近は医師の不養生ともいわれかねないカップラーメンを毎日うつろな目で食べる日々が続いていた。 彼女自身、根が真面目なのでどんな困難な仕事にも常に使命感とやりがいを持って取り組んでいるが、いかんせん真面目過ぎるゆえか病院で日々繰り広げられる様々な問題に悩みすぎるところもある。 「依子センセイ、またその食べ物ですか?確かに俺の見立てではヒトが生きていくうえで必要な栄養物は入っていますが、お世辞にもバランスがいいとは言えませんよ」 「あっ天使(あまつか)さん!?また、どこから?」 そこにどこからともなく割って入ってくる黒髪の男性。 年のころは20代後半くらい―外見でいうなればちょうど依子の2~3個下くらいである。 傍から見れば同棲している年下彼氏…のようにも思えるが実はちょっと違う。 「どこからって…俺は天から来たんですよ。前にも話したじゃないですか」 「そっそういうことじゃなくてね…」 と本人が名乗っている通り、彼は彼女のもとに降り立った「守護天使(新米)」らしい。 彼女も最初は「この人、何を言っているのだろう」と思っていたが、今彼女に軽くお説教している彼の背中にうっすらと白い羽が見えるし、ちょっとばかり(?)この世に疎い彼はそのお説教をいつもの癖で飛んだまま行っている。 とりあえず宙に浮いたまま説教されるのは落ち着かないので、彼に座ってと声をかけた。 彼はわかりましたと羽を消して、正座をして彼女に向き合った。 「確かに、栄養バランスが悪いのは承知しているわ。けど、ここ数日病院のことが頭から離れなくて…用意もロクにできなくて」 「それはあなたを守護している俺が一番よくわかっています。依子センセイは毎日あの病院で患者さん皆さんを治療して、励ましの声をかけて…本当に頑張っていますよ。ただ…依子センセイ自身も労わってあげないとだめです。自分を犠牲にしないてください…」 天使は真摯なまなざしで依子の瞳をまっすぐ見つめながら言った。 本気で守護天使として彼は彼女のことを心配しているのだと伝わってくる。 彼のその姿に依子は胸を少しばかり痛めた。 「依子センセイは笑顔がこんなに素敵なんですから…ね!」 「ふぁっ!」 天使はそう言って急に依子の頬を優しくつかみ、げっそりしている依子の顔をフニャンとした顔にさせた。 依子は依子で、人間が癒しを求めて猫や犬や赤ちゃんの顔をふにふにと掴む感覚ってこんな感じなのかと妙に客観的な考えを頭に巡らせていた。 そして、何の遠慮もなく自分にこんなことをする彼のまるで子供のような無邪気さに変な感覚になっていた。 最初は何をするのかという気持ちとこの人は本当にマイペースすぎるという思いで呆れの感情があったが、頬をフニフニと掴まれニコニコと笑われるとなんていうか…不思議なことに「まあいいか」という気持ちにさせられるのだ。 いつも張り詰めた環境にいる彼女だからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。 そして、彼女は頬をつかんだままの天使の手に自分の手をあてさりげなく下ろすように頼んだ。 天使は最初拒絶されたのかと感じたのか少しだけおろおろしたが、そうではないと諭すように笑って見せた。 そんな依子の肩の力を抜いた自然な笑顔に天使もお返しにとキラキラとした笑顔を見せた。 そして依子は改めて深く深呼吸をし、自分の頬を今度はぺちんと軽くたたいた。 「ヨシッ!じゃあご飯は食べちゃったから、ミルクティーでも入れようかな。」 「あっでもお茶だけじゃ…」 「あと気分転換に軽くだけど明日のお料理の準備もするつもり。もちろん無理しない程度にね。もしよろしければ手伝っていただけるかしら…?」 「はい、喜んで!!」 そうやって二人は暫く使っていなかった台所のコンロに火を付けに行った。 その後 「あっでも、天使さんって人間のモノって触れるの?よく幽霊とかだと透明で…すけちゃったりしちゃったりとか本で読んだことあるから」 「大丈夫です、俺は修行しているんで人間界のモノもちゃんと触れますよ」 「修行で何とかなるものなのね…」 「味はよくわかりませんが栄養バランス等々は勉強してきましたからお役に立てるかと」 「…味見は私がやるから大丈夫」 「はあ、そうですか…」
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