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「何?どうしたの?」
「…あまり無理をするなよ。」
聞こえた声に、俺は参考書から目を離して顔を上げた。
「生徒会も無理してやることはないんじゃないか。」
「無理なんかしてないよ。」
間髪を入れずに答える俺を、侑翔が真っ直ぐに見ていた。
「…侑翔こそ、俺に付き合って無理して生徒会に入って来なくても良かったんだよ?」
「俺は無理なんてしていない。」
俺が生徒会長に立候補する、と侑翔に告げたときも、侑翔は無理をするなと今のように俺に告げてきた。
が、俺の決心が変わらないのがわかると、自分も次の日にはさっさっと副会長に立候補していた。
「…お前は人前に出ることをあまり得意としていないだろ。生徒代表なんかで話すときは、いつも無理をしているように俺は見える。」
侑翔の言う通り、俺は人前に出るのが苦手だ。
人に注目されるのは嫌だし、出来ることなら誰の目にも映らないでいたい。
けど俺は、完璧でありたかった。
誰もが凄いと尊敬の目を向ける、そんな人でありたかった。
そうすれば、オメガの俺でも認めて貰えるんじゃないか、と勝手に希望のようなものを抱いて。それを捨てきれないでいる。
「生徒会の仕事の量も馬鹿にならないのに、勉強時間も生徒会に入る前と変わっているように見えない。」
「…大丈夫だってば。本当に侑翔は心配症だな。」
誤魔化すように笑って、参考書に目を戻そうとした俺の顔に侑翔の大きな手が伸びてくる。
「お前、最近あまり寝ていないだろ。顔色が良くない。」
伸びてきた侑翔の手が、するっと俺の目元をなぞった。
「…大丈夫だよ。」
「お前の大丈夫は全然信用ならない。…抑制剤、また勝手に増やしたんじゃないだろうな。」
「え、」
思わぬ指摘に視線を反らすと、途端に侑翔の眉間に皺が寄った。
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