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「邪魔何だよ、道の真ん中塞ぎやがって。」
「…ぶつかってきたのそっちですよね。」
「…あ?」
何やら不穏な声が聞こえて、思わず足を止めた。声のする方を見ると、背の高い男4人が対峙している。
こちらを向いている三人の内の一人は、見たことのある顔だった。
…確か、松本とか言う名前の三年のアルファ。
アルファらしく優秀さが目立つとか言うわけではなく、素行の悪さで噂になっていた奴。
後ろに引き連れている二人は、たぶん松本の取り巻きのベータだろう。
こちらに背中を向けてる男の側で、女子生徒2人が戸惑ったように顔を見合せていた。
この男も、たぶん体格からしてアルファだろう。
女子にチヤホヤされてるのを見て、イラついた松本がいちゃもんをつけてきた、てところだろうか。
アルファ二人の間に割って入るのは正直、勇気がいる。
けど、長谷川家のアルファで、この学園の生徒会長と言う肩書きを背負っている限りは。
これを素通りするわけにもいかないだろう。
「どうかしたのかな?」
俺の声に反応し、向かい合っていた二人が俺に顔を向けた。
「長谷川会長…!」
「会長だ…」
「俺、こんな近くで初めて見たかも…」
突然の俺の登場に驚いたのか、女子たちと松本の後ろにいた男子二人がざわめきだす。
「っ、…長谷川、」
松本が俺を目に止め、忌々しげに舌打ちをする。
俺は改めて、松本と対峙していた男の顔を見た。
身長は、…たぶん190ぐらいあるだろう。
恐ろしく整った顔立ちをした奴だった。
特に、モカブラウン色の、ふわふわした柔らかそうな髪と少し垂れ目気味のくっきり二重の瞳に目を引かれ、何て言うか、ただ立っているだけで、華があるような人だ。
…それに、
「噂になってるよ。あの長谷川家の双子のアルファに匹敵するぐらい、オーラがあるとかなんとか。」
二宮が言っていた新入生のアルファは、十中八九こいつのことだろう。
普通のアルファとどこが違うとか、明確にはわからない。
けど、明らかに格の違いのようなものを感じた。
「会長様が何かご用ですか?」
松本が嘲笑しながら俺を見下ろす。
「…大声が聞こえたので何かあったのかと思いまして。」
校則の取り締まり等で、何度か注意したことがあったため、松本からそれなりに憎たらしく思われていることはわかっていた。
こいつだって腐ってもアルファだ。
勿論、俺なんかよりも全然体格だっていいし、喧嘩にでもなったら敵いっこない。
松本はすぐに手が出ることで有名なのに、俺に喧嘩をふっかけたりしてこないのは、皮肉にも俺が「長谷川家」のアルファであるからだろう。
「…てめぇに関係ないだろ。しゃしゃり出てくんなよ。」
「校内で騒ぎを起こされては困ります。」
また舌打ちの音が聞こえたと思ったら、松本の手が目の前に伸びてきていた。
たぶんきっと彼は、俺を殴ろうと思った訳ではなく、胸ぐらかなんかを掴もうと思ったのだと思う。
松本の手が俺に触れようとしたその寸前、
「…っ、てめぇっ、」
「いい加減にしてください。もとはと言えば、あなたが勝手にぶつかってきていちゃもんつけてきただけですよね。」
その腕をモカブラウン色の彼が掴んだ。
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