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「ん?何?どうかした?」
目の前にはツクモさんがあたしに超顔を近づけていた。
にっこりとした笑みを浮かべて。
こんな至近距離まで顔を近づける男の人って初めて。
しかも、何の恥じらいもなく。
こっちはあの、その心の準備ってもんが必要で・・・って、そんなんじゃなくて!!
「えっと、ツクモさん。ここは?」
「ああ、キミさっき紅茶を飲む前に気絶しちゃって、ここのソファに目が覚めるまで寝せてあげてたんだよ。」
初対面の相手になんていう醜態をさらしたんだとあたしは肩をがっくりと落した。
あっでも、そもそもさかのぼってみるとあれだよね。
あたしが気絶した理由ってツクモさんの・・・アレで、それで。
ちょっとびくついた目でツクモさんを覗き見る形になって、ツクモさんはきょとんとした表情を浮かべていた。
すぐに、またニコニコした表情に戻っていたけれど。
すると、隣に濡れタオルをもってユメミさんが戻ってきた。
ユメミさんの横にはさっきのワンちゃんが、すっかりなついて寄り添っていた。
「リオちゃん起きたのね。よかったわあ。いきなり気絶しちゃうんだもの。はい、タオルいるかしら?」
「ユメミさん、ありがとうございますほんと。」
「ワンちゃんもミルクを飲んで、すっかりあったかくなったわ。あなたも、お紅茶を入れなおしたからどう?」
「ユメミの紅茶は本当においしいんだよ。飲んでみてよ。でも、一番は特製のトマトジュースかな、ハハハ」
とまと・・・じゅーす。
あたしの思考が止まった。
血じゃなくて、トマト・・・ね。トマト。
って。
「紛らわしいことしないでくださいよ!!」
思わず、ツクモさんとユメミさんに突っ込む形になってしまった。
二人は再びきょとんとした表情になるが、すぐ笑顔になって
「紛らわしいってああ、大丈夫よ。これ、本当にトマトジュースだから。お屋敷の裏側が畑になっていて、私が毎年そこで育てたトマトを特製ジュースにしてるのよ。一杯いかが?」
そういわれると、ユメミさんはコップに一杯トマトジュースを入れて、あたしに差し出してくれた。
あたしはユメミさんの善意を拒否することもできず、びくびくしながらトマトジュース(?)に口をつけた。
お味はというと。
「おいしい・・・ほんと、これおいしい!!」
「だろ!よかったー気に入ってもらえて。ユメミもボク以外の人にこのジュースを飲んでもらえて嬉しいはずさ!」
「ええ、本当にありがとう。」
二人の淡々と進む、会話にだんだんついていけなくなってきたところであたしはトマトジュースを飲み干して、尋ねる。
「じゃあさっきの真っ赤な包丁は?」
「急いでてごめんなさいね。トマトを切ってミキサーに入れたところで来てしまって。久しぶりのお客様に私も困惑しちゃっていたのね」
あたしの些細な勘違いがきっかけで二人に迷惑をかけてしまったのだと思うと、ますます肩身が狭くなってきた。
「あっあたしそろそろ行かないとバイトの時間に間に合わないんで。この辺で失礼します・・・!」
「そう・・・ごめんなさいね。変な形で引き留めてしまって。でもトマトジュースを飲んでくれて本当にうれしかった、ありがとう。リオちゃん」
そういうと、ユメミさんはあたしの手をそっと取ってなんか感慨深げにしていた。
ツクモさんはともかくとして、ユメミさんはなんか久々にあたしみたいな人間に会えたことでうれしそうだった。
確かに、お客さんは近寄ってこなさそうだけど・・・そんなにあたしいいことしたかな。
というか、むしろ迷惑をかけっぱなしだったような。
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