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「まったく、ヘタレは相変わらずか。強がってるくせに」
あたしはお構いなしに、穴をくぐった。
まああたしの体型ならあまり苦労せずに入れたし。
「失礼します」と軽い礼の一つも交わしながら、あたしは初めて屋敷の敷地内に侵入した。
すぐに傘をさすと、そこには今まで遠目からしか見たことがなかった屋敷の全貌を見た。
雨で暗くて、よく分からないけれど。
本当に何十年も、いや何百年も前からあった屋敷なんだなというのがよく分かる。
古びたレンガ。家に絡まる蔦。洋風の窓。
ここだけ、町から切り離された不思議な空間。
人がめったに近寄らないから?
でも、あたしはなんか怖いと思いつつもそこに奇妙な懐かしさを感じていた。
一度入ろうとしたことがあるからかなと思った。
いや、違う。そうじゃない。
そういう感覚とは違う懐かしさだったから。
よく分からない、不思議な感覚に惑わされながらあたしは屋敷をぼーっと見ていた。
そうすると、足元で音がすると思った。
こんな時にする音だから、何かと思った。ちょっとびくついて臨戦態勢に入る。
(自分でも何に臨戦態勢なんだか、わかんないけど)
すると出てきたのは・・・
「ワンワン!!」
雨に濡れた黄色い子犬だった。
見ると首輪もないから、野良犬なんだろう。
親とははぐれたのかな。それとも親が死んだのかな。
「びっくりした~でも、お前も一人ぼっちじゃかわいそうだもんね。おいで、あたしの胸の中の方があったまるよ」
小さいころから動物は好きだったけど飼えなかったから、ついつい情が移ってしまって、あたしはその子犬を抱き上げた。
子犬の方も人懐っこいのか、きらきらした瞳であたしを見てる。
なんかかわいいなあ。ホント。
一応胸にその子を抱き寄せて、あたしは道をつっきることにした。
アルバイトのこととか、その時はちょっと吹っ飛んでしまっていたらしい。
そんなことをしてる間に、雨も和らいできたらしい。
折りたたみ傘も普通に差せるようになったから、差して、そのまま道を突っ切ろうとした。
すると、あたしの目の前にぼんやりとした光が現れた。
光というか、人影?
「はは・・・まさか、ユーレイ・・・とかってね。」
現太程の怖がりではないあたしでも、こんどこそヤバイ状態だと肌で感じ取る。
このお化け屋敷の中でぼんやりとした人影はねえ。
なんか、そして人影近づいてくるんですけどどんどん。
抱きかかえている子犬もちょっとびっくりしてるみたいだし。
ということは、ということはやっぱり・・・
「キャアアアアッ!!おばけぇぇぇぇぇぇっ!!」
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