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そう、叫んだ瞬間。
人影があたしの目の前で止まった。
ぼんやりとした影は、具体的な形を帯びて、あたしの目の前にいた。
抱き上げた子犬があたしの胸の中から飛び出して、その足にすりよっていた。
白いレースのフリルのついた赤いロングスカートがあたしの目につく。
地面にへたりこんだあたしがスカートから上を見上げると、ランタンを持った女の人が驚いた表情であたしを見つめていた。
ウエーブのかかった長い黒髪で頭の上には、そう、よくある秋葉原の特集で見たあのカチューシャがついてる。俗にいうメイドさん?ってやつですか。
恐怖で金魚のように口をぱくぱくさせているあたしの姿をみて、メイドさんは驚いた表情を見せた直後にくすりと笑った。
そして、手を差し出す。
「あらあら、どうしたんですか?ここに人が来るなんて珍しいけど・・・」
鈴の音がなるようなかわいらしい声のメイドさんはあたしに向かって、そんなことを言ってきた。
メイドさんがお化けなんじゃないかと思って、びくついているあたしは「ハハハ」としか返せず、呆然としていた。
「大丈夫?こんな雨の中、濡れてるじゃない?ほら、タオルか何かいるかしら。あら、貴方もなの、ワンちゃん。」
一方優しいメイドさんはニコニコしながら、あたしと子犬に応対してくれた。
呆然としているあたしを起こそうと手を貸してくれた。
そこから流れる暖かい感触に、この人は普通の人間だと思わせてくれた。
やっとあたしは現実の感覚に帰ってこられた気がした。
「あなた、お名前はなんていうの?」
「かっ、神原・・・理緒・・・です。」
「そう、わたしは夢美(ゆめみ)っていうの。ここの屋敷のメイドをしているのよ。よろしくね、リオちゃん」
「ユメミ・・・さん。よろしく、お願いします。」
そう、それがあたしとユメミさんの出会いだった。
そして、これがあたしが体験する奇妙な物語のきっかけだった。
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