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「それにしてもお客様なんて久しぶりなのよ。
お出しできるものは限られているけれど、大丈夫かしら?」
ユメミさんはそう言って、あたしを屋敷へと案内してくれた。
最初は丁重にお断りしたんだけど、子犬のことが気になって。
あとアルバイトのこともあったんだけど、この近道を使ったおかげで少しばかり余裕がある。
お茶の一杯程度でもと考えていた。
雨は収まりつつあったけど、未だに空は真っ暗闇。
ユメミさんが持つ、淡いランタンの色だけがぼんやりと屋敷とあたしたち周辺を包み込んでいた。
怖さもこれで少しは和らいだ・・・のかな。
子犬もユメミさんには、ずいぶんなついてるみたいでユメミさんの飼い犬かなと思って聞いたんだけど、違うって言われた。
「あのおユメミさん、ユメミさんがこの屋敷のメイドってことはそのあの・・・『ご主人様』っていうのがいるんですよね。」
今どきの日本、あたしくらいの世代だとメイドカフェ以外にメイドさんを見る機会がないご時世。
そうなると、まさかとは思ったんだけどいちおう確認の意味を込めてユメミさんに聞いてみた。
まるで、おとぎ話の世界のようなこの屋敷だもの。
「ええ、そうよ。ご主人はとっても優しい人だから大丈夫。心配しないで。
それよりも、濡れているから早く中に入って、タオルを・・・」
「ああはい、ありがとうございます。」
とっても優しいご主人様。
でも、こういう時のご主人様ってどういうんだっけか。
昔話で読んだ時のご主人様ってすごくリッチなおじ様ってかんじよね。
でも、でも・・・そういう人って結構お固くって、それで気に食わないことがるとすぐに・・・というか、本当にそもそもここ大丈夫なわけ?
ユメミさんの優しさに甘えてしまってるけど、近所そこらでお化け屋敷と揶揄されてる場所だからひょっとして吸血鬼とかもありえなくない?ユメミさんは普通の人だけどさ。
コウモリ飛んでるし。っていうかやっぱりこの屋敷不気味すぎる。
そんなことを頭の中でぐるぐるとしている間に見事に屋敷の目の前に到着。
ずいぶんと古びたドアがあたしを出迎える。
なんか蔦とか、西洋の装飾(悪魔か何かが牙をむいた彫刻?)なんてのもあるし。
ほんと、おとぎ話の世界だと思った。
あたしがびくついてる間にもユメミさんは我関せずで、普通にドアを叩いた。
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