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くたくたになった体を引きずりながらユティは帰路についていた。
彼女は本日とてもついていない。
今朝、二日酔い特有の頭痛と倦怠感を抱えながら起き、それでもどうにかけたたましい音を鳴らすアラームを消そうとしたのだが、飲み散らかした酒缶に躓いて頭を机にぶつけた。
21歳にもなって出来た大きなたんこぶを冷やしながら大学にいくも、遅刻だと教授に怒鳴られ、挙句罰として授業でやっていた人物についてのレポートを書かされていた。しかも提出期限は今日。結局施錠ギリギリまでかけてなんとか先程提出してきた。
自分が悪いので仕方ないと言われればそれまでなのだが。
(それにしたってね……)
まだ痛むたんこぶを触りながら再び重いため息をつく。
気を紛らすためにスマホを取り出し、SNSを開いた。
飼い主と一緒に寝ている猫のかわいい画像が投稿されており、思わず顔がニヤけてしまう。
猫は良い。小さくても大きくても可愛い。何しても可愛い。
来世は猫になりたいと切実に思う。
でも野良だと大変だから金持ちの猫に飼われたい。
そうすればこんなドジで間抜けな自分でも、許される気がするから。
まぁ、別に許されたい相手などいないのだが。
そんなありもしないことを考えていると、また今日のことを思い出してしまった。
今回授業でやった範囲はちょうど有名人なので書きやすかったのがせめてもの救いである。有名人といっても悪名高いほうだ。
彼の名は「ハミル・リューベルク」。
今から150年程前にヨーロッパに実在したとされる狂王で、悪行の限りを尽くし最後はその生涯を部下による暗殺という形で幕を閉じた、と語り継がれている。
教授はこの男が大層気に入らないようで、ハミルの肖像画が映し出されたスクリーンをバンバン指示棒で叩きながら説明していた。未だにテレビ番組での再現や映画などの悪役のモデルになる人物なので、現代の人々に嫌われるのも無理はないのかもしれない。
(もし、あいつが生まれ変わったらろくでもない人生だろうな……。)
いつもの曲がり角を曲がり、やっと家まであと少しというタイミングで珍しく車が止まっているのが目に入った。
大きな黒いバンを囲む数人の男。
何やら不穏な空気なので思わず隠れる。今日は遠回りして帰ろうかと考えながら様子をうかがっていると遠くに子供が見えた。その子供は黒いバンに気付くと慌てた様子で来た道を走るが動揺したのか転んでしまう。
その少年に男達が近づき、バンの中へ連れ込み何処かへ行ってしまった。
「……え」
突然起きた出来事に頭が回らない。どうしようかとオロオロしていると後頭部に強い衝撃が走る。
うなり声を上げながら後ろを見ると1人の男がバットを持ちながらどこかに電話をかけているのが見え、そこで意識は途切れた。
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