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「あ、いいよ雪平さん。僕がもつから」
「えっ、あ、う…」
「大丈夫。腕、きついでしょ」
どくどくと心臓が騒がしく音を立てている。
こんなにも雨の日をうれしく思ったことは、いまだかつてきっとない。いつもなら、ローファーに水が染み込んで嫌だなとか、眼鏡に雫が付いて前が見づらいなぁとか、そんな不満ばかりなのに、だ。
雨のおかげで朝吹くんと下校時刻が被って、ひとつの傘を共有することになって、同じ歩幅で歩いている。
夢みたいだ。
あの朝吹くんが、華の生徒会役員の彼が、私の隣にいる。
朝吹くんが私の手から傘を奪う。ほんの一瞬だけ触れた指先。それだけで、私は馬鹿みたいにドキドキしてしまう。
人見知りで友達もろくにいない私が男の子とふたりきりになることに耐性があるわけもなく、肩が触れるか触れないかの距離にいるだけで心臓がどうにかなってしまいそうだった。
髪の毛が長くてよかった。うつむいていれば、横髪に隠れて朝吹くんに顔を見られることはないだろうから。
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