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プロローグ
濡れた前髪の隙間から覗く黒い双眸が私を捕らえる。クッと口角が上がり、彼は妖艶に微笑んだ。
成績優秀、容姿端麗。常に得体の知れない上品さを纏っており、学園を取り締まる生徒会の書記を務める優等生。
そんな彼の───誰も知らない本性のこと。
「怖いなら逃げてもいいよ」
そんなの、もう今更だ。魅惑的な雰囲気に、真っ直ぐな瞳に──甘い、声に。捕らわれて動けなくなる。呼吸をすることすら忘れ、思わずヒュウッと息を呑んだ。
怖い、怖くない、怖い、怖くない。
素敵だ、魅力的だ。そう、思っている。
「……朝吹くんのこと、もっと知りたい」
「ふ。想像以上のバカだね、雪平さんって」
「知らないよ、どうなっても」
───未だ知らない熱に、捕まった。
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