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傘は少し離れたところに転がり、強い雨が身体を打ち付けている。雨に濡れて帰るのが嫌で私と傘を共有して帰ることになったのに、これじゃあ全部意味がなくなってしまった。
至近距離だから、黒髪が濡れていて、制服も肌に張り付いていることは眼鏡がなくても確認できた。
「…あ。これ、返すね」
そう言って、朝吹くんは少しだけ身体を離し、カチャ…と眼鏡をつけてくれた。
途端にクリアになった視界。朝吹くんの顔があまりにも至近距離でまた身を引きそうになるも、それよりも気にしなければならないことを思いだし留まる。
「ご、ごごご、めんなさ…っ、び、びしょ濡れで…っ」
「僕のことはいいよ」
「よ、よくないです…っ、ごめんなさい本当に、このままじゃ風邪ひいちゃ…、」
「雪平さんこそ、」
「…え?」
透けてるよ、ナカ。
トン……と鎖骨のあたりに人差し指を立てられた。爪先が、肌と密になったブラウスに触れる。それが何故かとてつもなくいやらしく感じ、お腹のあたりがキュッと疼いた。
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