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1.刻印
その日は雨だった。
「──…朝吹くん……?」
時刻は18時を回ったころ。放課後の図書委員の仕事を終えた私は、昇降口で彼を見つけた。
校則に逆らうことなく制服を着こなし、ワイシャツの第一ボタンまできっかり締めた黒髪の彼が、私の声に反応してゆっくりと振り返る。
「…あれ、雪平さんだ」
急いで靴を履き替え、たたっと小走りで彼のもとに駆け寄る。
わが校の部活動終了時刻は19時で、図書室はその1時間前に閉めるというルールになっている。そのため、図書委員の私が図書室を閉めて学校を出るこの時間は、昇降口は閑散としていて生徒の姿が見られることはあまりない。
まさか1日に二度も、しかも図書室以外で朝吹くんに会えるなんて思っていなかったから、分かりやすく声が弾んでしまった。
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