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「あっ…さぶきくん、」
「僕の名前に抑止力とか無いよ?」
朝吹くんの艶やかな声が語尾で掠れる。甘ったるい笑顔の彼が、私の後ろにあったシャワーの切替ハンドルを上へと持ち上げる。
「っ」
その瞬間、シャワーの水が線を描くように私たちの頭上へ降り注いだ。
鳥肌の立つような冷たさから、すぐに惚けるような温度へと切り替わる。なんだかそれが、朝吹くんに似ているように思えた。
朝吹くんはそのまま私の後ろへとさらに手を伸ばす。距離が詰まる。ぼやけた視界の先で朝吹くんだけが纏う生の温もりが私のと混ざった。
シャワーヘッドを手にすると、朝吹くんはそれを私に差し出した。
「雪平さん、持っててね」
言われるがまま両手で受け取る。私の方に向いていた散水板は、そのままお湯を垂れ流しにして、鎖骨のあたりから足の先までとめどなく流れ落ちていく。
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