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「雪平さん。その手、邪魔だよ」
「…っ、ごめんなさい」
「謝らなくていいから顔見せて。ね?」
「……もう少し待って……、」
泣きそうな声で零せば、朝吹くんからの切り返しはすぐにあった。
「やだ」
その言葉と共に、太ももの上にぼふ、と温かい重みが乗る。反射的に両手をどかして見下ろした先には、朝吹くん。
彼は私の太ももの上へと頭を乗せて、私を見上げていた。私と目が合うと嬉しそうに、まるで子供が宝物を見つけた時のような顔で微笑む。
「雪平さんの黒目って意外と茶色いんだね」
朝吹くんが私の顔へ手を伸ばす。指先が私の涙袋に触れる。
「このこと、知ってるの僕だけ?」
無邪気な問いに、私は素直に頷く。
すると、朝吹くんはさらに目を細めた。長い睫毛はもとから上向きなのか、綺麗な顔に品を添える。
「じゃあ、この先も誰も気づかないといいな」
「……え?」
「僕しか知らない雪平さんが居るのって、特別感あってうれしいから」
先程までの行為がまるで嘘のようだ。それほどまでに、朝吹くんの美しさには正当性があった。
「あー……ホント、無知でかわいいなぁ」
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