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しばし じいっと見つめられたあと、「雪平さん」と名字を紡がれる。
朝吹くんの低温ボイスが私を呼ぶたびにドキドキしてしまうのはいつからだったか。初期の記憶はとうに曖昧になってしまっていて、いかに自身が気づかぬうちに朝吹くんに好意を寄せてしまっていたかを自覚した。
「雪平さん、……傘」
「…か、傘?」
「うん、傘。さっき真昼に──…会長に貸しちゃったから自分のが無くて。よかったらなんだけど、……途中まで入れてくれないかな」
「えっ」
「さすがにこの雨に濡れて帰る度胸はないっていうか、……ね」
私の身長に合わせて顔を覗きこむように屈んだ朝吹くん。一気に顔と顔との距離が近くなり、声にならない声をあげて咄嗟に身体を引けば、「…だめかな?」と追い打ちをかけられた。
ダメなわけがない。そもそも、朝吹くんの言葉に頷かない生徒なんてこの学校にいるとは思えない。
だって、これだけ魅力が詰まった美しい男の人なんだもん。
慌てて首を横に振る。朝吹くんは、「ごめんね、ありがとう」と柔らかく微笑んだ。
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