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三女、百都子の目
電車に揺られながら妹の十和子の隣で吊革を握っていると、十和子のスマホが鞄の中で振動した。
スマホを取り出して画面を見る妹は、身長も私より高い176センチ、ヒールを履いているからその辺の男性より一つ頭飛び抜けて大きく感じる。
おしゃれが好きで毎朝、万希子姉と洗面台の取り合いになるのも、二人が髪型に時間を掛けるからだ。
十和子はH大学の英文科の四年生、就職を控えた大事な時期だが大学に入ってすぐ読者モデルを始めて、卒業後モデル事務所に誘われているらしく、悩んでいるのだと聞いていた。
緩い天然パーマで栗色の髪は万希子姉と同様に、緩い天然パーマで薄い茶髪の父親譲りだと分かる。
千花子姉と私は黒髪ストレートで千花子姉はとても綺麗なストレートロング、私は絵を描くのに邪魔だからボブにカットしている。
横だけ後ろより長く、絵を描くときは横髪だけを後ろで留めていた。
スマホを見つめる横顔を綺麗だなと実の姉でも思うのだから、十和子の向こう側に立っている男性がその横顔に見惚れていても不思議ではない。
「うわっ!予定変更だわ。」
「講義?」
「うん…ちょっとしつこい人がいてね、その講義、取ってないはずなのに教室にいるんだって。」
「講義、出ないの?」
「話しかけられて付き合えってしつこいの。モデル事務所の話聞いたらしくて、彼女はモデルだって自慢したいだけなのよ。」
「そう…大丈夫?困る前に…危なくなる前に相談しなさいよ?一人では無理でも万希姉も千花姉も私もいたら、そんな男一人くらい対抗出来るんだから!」
いつかを思い出して私の鼻息は荒くなった。
「分かってるよ。私だってあんなのもう嫌だもの。」
揺れる電車の中でとても小さな泣きそうな声が聴こえた。
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