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「気をつけてね!」
念を押して十和子より先に駅に降りた。
「藝術大学前」その駅名が百都子の職場の最寄り駅になる。
高校を卒業後、好きだった絵を描きたいとかなりの倍率だったT県立藝術大学に運良く入学出来た。
在籍中にコンテストに応募した作品が何とか引っ掛かり、卒業後、講師として働きながら応募作品を描かせてもらえている。
自分はとてもラッキーで恵まれていると思っている。
駅を出たらバスで15分、大学の正門前にバス停がある。
鞄の中には小さな巾着に入ったお弁当箱。
巾着の色はそれぞれのカラーが決まっていて百都子はピンク。
姉妹のカラーは誰が決めた訳ではなかったが、一番上の姉が赤い洋服が好きで、当初は千花子にピンクの物ばかりを買い与えていた母だったが、3歳を過ぎると個人の要求が出て来て、緑の色を選ぶ様になった。
それで母が三番目の百都子に女の子らしいピンクの服や持ち物を持たせたがって、自然にピンクが増えて、百都子も特に嫌いではなかったので、そうなった感じだ。
(そういえば…一姫は小さい頃、ピンクが好きだったな。私の持ってる物をお下がりで欲しがったわね。万希姉のだと赤になるし、百都姉のがいいって。おねだりも可愛いのよね。)
正門前でバスを降りると、百都子はゆっくりと歩き出す。
高校三年の三者面談、担任は美大なんか無理だって言い捨てた。
受けるだけと言う母親に難関で倍率も高い、美術部とはいえ、うちの高校の美術部は趣味程度の実力ですよ。実技で落ちてしまいますよ、担任の言葉とは思えないが、担任がゴーサインを出さないと受験出来ないとかおかしくないかと思いながらも言えず、成績が良いんだから勿体ないと、姉と同じH大学の受験を薦められた。
国立大、家から通える距離、就職にも有利、友人にも贅沢だよと言われてそうなのかもと諦め始めた時、一姫に言われた。
百都子姉の人生だよ?担任の先生でも友達でもなくお姉ちゃんが自分で決めないと後悔する!受けるだけ受けたら良いじゃない!先生もはっきり言えば反対出来ないよ!受かる人がいたら落ちる人もいるんだもん!でも受けなきゃ受からない!
「……ふふ、ホントその通りなんだけどね?」
独り言を言い、銀杏並木の間を歩きながら空を見上げた。
当たり前の事だけど、ずっと真面目で来てしまったから先生の言う事は絶対だと思ってしまっていた。
一姫は昔から困った人を放っておけないというか…弱っている人を察知するセンサーでも持っているのかと思う程、そういう時に側にいてくれる。
そんな子だから………あんな目に遭ってしまった。
責任は私達にある。
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