長女、万希子の目

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可愛い一姫に上り口で手を振られて、振り返しながら玄関のドアを閉めた。 我が家は昔ながらの古い造りの一軒家。 リフォームや増築はされているが、祖父の代からの家を大事に修理しながら住んでいる。 玄関は大きな木製の引き戸で、ガラガラと音を立てて閉めると気合を入れて門の方に体を向けた。 「お仕事、お仕事!」 笑顔を作り、門を出た。 栗色の長い髪は自慢で染めてもいない地毛、短めの姫毛を両横に少し残して、長い横髪をクルクルと巻きながら後ろで留めて、そこから緩い編み込みをしていき、最後にクルッと横髪を縛っているゴムの所で白いバレッタで留める。 仕事用の髪型で、満員電車に乗っても邪魔にならないし、仕事中も長すぎる髪は邪魔になるからだ。 家を出てすぐお隣のおばさんに声をかけられる。 「おはよう、万希子ちゃん。今日も美人さんだわ。お仕事いってらっしゃい。」 「ありがとうございます、行ってまいります。」 ペコリと頭を下げて前を通り過ぎると、おばさんのため息が聞こえた。 「ほぅ〜、いつも綺麗ねぇ。」 聞きなれた言葉…というかお隣のおばさんは毎日、外を掃除していて、十和子にも百都子にも同じ事を毎朝言うらしい。 「万希子ちゃん、おはよう、今日も綺麗だね!」 「おはようございます、ありがとうございます。」 すれ違うジョギングのおじさんに言われたが、近所の人と分かるだけで誰かは知らない。 すれ違い様に言われる事は小さな頃からの事で、すぐ下の妹といても美人姉妹。百都子といても十和子といても同じ事を言われて、みんなそういう事を言うんだと思っていた。 挨拶みたいなもの、そんな認識でいて、一姫が産まれて一人で初めて連れて歩いた時、いつもとは違う言葉を始めて聞いた。 「親戚の子?似てないのね?えっ!!妹さん!!嘘でしょ?華がない子ねぇ…万希子ちゃんが美人さんだから余計に……あ、ごめんね?変な意味じゃないから!」 何処に連れて行っても「普通」、「地味」、「本当に血が繋がっているの」と言われて、暫く一姫と二人で外に出るのを避けていた。 「馬鹿な私。自慢…してやれば良かった、噛みついてやれば良かった。」 電車に揺られて吊革を手にボソリと呟いていた。
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