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  あるところに赤いにんじんが大好きなうさぎさんがいました。  まっしろなふわふわの毛なみにルビィのようなまっかな目。うさぎさんはかわいらしいがいけんをしています。けどにんじんや草などたべることにしかきょうみがありません。  そんなうさぎさんにこえをかけたのは黒い毛なみがつやつやとしたちゃいろい目の犬さんでした。犬さんはうさぎさんと昔からの友だちです。 「……なあ。うさぎさん。きみはいつだってにんじんかなにかをたべてばかりだな」 「それはおなかがすぐへるからよ。わたしはたべていないとふあんなの」 「そうかい。けどあんまりたべていたら。ふとっちまうぞ」  犬さんのことばにうさぎさんはとびあがりふるえました。それはたいへんとおもい、犬さんにききます。 「……そんなあ。じゃあ、ふとらないためにはどうしたらいいの?」 「うーん。たべるりょうをへらしてよく動くことかな。よるもよく休むのもだいじだなあ」 「そっか。よかったあ。わかった。きょうからたべるりょうをへらして。よく動くことにするわ。ありがとう。犬さん」  うさぎさんはいいことをきいたとよろこびいさんでお家へとかえりました。犬さんはほんとうに大丈夫かなとしんぱいそうにみおくりました。  よくじつからうさぎさんのげんりょう大作戦がはじまりました。まずはにんじんやほかの食べ物のりょうをへらします。けど口がさもしいしぐうとおなかがすぐになってしまいます。これではいけないとお水をちびちびとのみました。ところがこれは失敗でした。おなかがたぷたぷになってしまったのです。仕方ないのでうさぎさんはお家から出てなるべくうごくようにしました。 「やあ。うさぎさん。きょうはどうしたんだい。めずらしく元気がないね」 「あ。白やぎさん。その。たいじゅうを今日からへらそうとおもって。ごはんのりょうをへらしてみたんです」 「……それはまた。うさぎさんはじゅうぶん細いよ。だれからやせろといわれたのかな?」  白やぎさんはもっさりとしたひげを手でなでながらといかけます。うさぎさんはうつむきながらもいをけっしてせつめいをしました。 「……じつは犬さんからあんまりたべていたらふとるよと言われて。だったらたいじゅうをへらしてみたらとすすめられました。わたしは犬さんにいわれたとおりにしたんです」 「ほほう。犬さんがそんなことを。たぶん、きみがあんまりたべてばかりだからしんぱいになったんだな。とはいえ、むりにやせなくてもいいんじゃないかね?」 「そうなのですか?」  白やぎさんのことばにうさぎさんはまっかな両目をぱちくりとさせます。いがいだといわんばかりでした。 「うさぎさんはさっきもいったようにまだまだ細いよ。わしのむすこなんかきみよりもずっとまるまるとしている。だからいってやるんじゃ。もっとやせないとおおかみさんにつかまるぞとな」 「そうですね。白やぎさん。ありがとうございます。犬さんと明日になったらもういちどはなしをしてみます」 「うん。そうしてみなされ」  うさぎさんはもういちど白やぎさんにおれいをいいます。そうしておわかれをしたのでした。  よくじつにうさぎさんは犬さんをぴょこぴょこと跳びはねながらさがします。お家からちょっとはなれた原っぱに犬さんはいました。うさぎさんはいきをきらせながら近づきます。 「おーい。犬さん!」 「あ。うさぎさんじゃないか」  大きなこえでよびかけると犬さんはふりむいてこちらにやってきました。犬さんはうさぎさんよりも二まわりは大きなからだをしていますが。それでもすばやくうごけるのでうさぎさんはいつもおどろかされていました。 「あの。犬さん。おとついのことなんだけど」 「あー。ごめん。おとついはぼくも悪かったよ。きみがすごく気にしてたってあとで白やぎさんにきいてさ」 「え。そうなの?」  うさぎさんは目をぱちくりとさせました。犬さんは気まずそうにしています。しっぽがしゅんとたれさがりました。 「うん。白やぎさんにすごくおこられた。うさぎさんはいくら花より団子というせいかくでもおんなの子なんだよって。むしんけいなことはいったらダメだとも言われたよ」 「……ふふっ。白やぎさんには隠しごとができないね。わたしがすごく気にしていたことはわかっていたのね」 「だと思うよ。でなかったらぼくにここまでいわないでしょ」 「そうだね。あとで白やぎさんにおれいをまたいわなきゃ。犬さんはどうする?」 「うーむ。ぼくも白やぎさんにおれいをしたいな。いっしょに行くよ」  にとうでうなずき合うと白やぎさんのお家にむかいます。ゆっくりとあるいたのでした。  そのご、白やぎさんのお家につきました。うさぎさんはおれいにと行くとちゅうでつんだしんせんなクローバーやタンポポの葉っぱ、ナノハナの葉っぱなどを両手いっぱいにかかえています。犬さんはあまい木いちごを両手いっぱいにつんでいました。白やぎさんはにとうのおみやげにたいそうよろこんでくれます。 「……やあ。よくきてくれたねえ。うさぎさんや犬さんのおみやげはうちのおくさんやむすことたべることにするよ。ありがとう」 「いえ。よろこんでもらえてよかったです」 「はい。ぼくもそれは同じです」  白やぎさんはにこにことわらいます。けどふいに真面目なかおになりました。どうしたのだろうとにとうは思います。 「ときに犬さん。うさぎさんによけいなことはあのあと、いっていないだろうね」 「……とんでもない。いっていませんよ!」 「ほんとうかい?」 「ほんとうです」 「ならいいんだよ。うさぎさんも犬さんからいわれたからってむりにやせようとしないこと。ほんとうにやせたいならこいをする季節になってからでもおそくはないよ」  白やぎさんのことばにうさぎさんはびっくりしてかたまってしまいました。犬さんはあちゃあとひたいに手をあててうつむきます。 「ほっほ。じょうだんじゃよ。けど。うさぎさん。もうちょっとしたらうさぎさんたちのこいのじきがやってくる。そのときに出会うあいてさんのためにきれいになろうとするのはいいことじゃ。ほどほどにがんばりなさい」 「……あ。はい。わかりました」 「うんうん。さあ、もうおそいからかえりなさい。犬さん。うさぎさんをよろしくな」 「はい」  犬さんはうなずくとうさぎさんといっしょにたちあがりました。こうして白やぎさんのお家をでたのでした。  あれからうさぎさんたちのこいのじきがやってきます。うさぎさんはまっしろなふわふわな毛なみにちゃいろい手ぶくろをはいたような、あかちゃいろの目のおとこの子うさぎさんと出会いました。すぐにいいなと思って近づきます。おとこの子うさぎさんは気がついてこちらにやってきました。 「やあ。きみはおんなの子のうさぎさんかな?」 「そうよ。あなたはおとこの子なのね」 「うん。いまからちょっとあっちでおはなしでもしない?」  うさぎさんはうなずきました。おとこの子うさぎさんはにっこりとわらいます。こうしてうさぎさんはかれのためにきれいになろうとけっしんしたのでした。  ――おわり――
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