助手席

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 大学生の長期休暇はとにかく長い。夏休みは二か月あるし、春休みも同様に二か月近くある。多くの大学生が暇を持て余している。俺もその例に漏れず無為に時間を浪費するに任せている。  先日の礼子とのオンライン飲み会もその暇つぶしの一環だった。ただ、今年の春休みは前半に自動車免許を取得したため、例年よりは充実していたと言えるのかも知れない。  大学近くにある下宿に帰ればいいのかも知れない。大学の友人と遊ぶのも悪くないだろう。ただ、俺には友人がいない。第三者から見れば友人と定義される知り合いは何人かいるが、彼らと関わることに楽しさを見出せない自分がいる。  だから、長期休暇は実家に留まってる。そして、小学校の頃から関わっており、余計な気遣いの必要がなく、一応“彼女”である礼子に絡んでいるのだ。 「最近、小池さんと連絡とってるの?」  唐突に何事かと思ったが、母であった。 「あ、ああ。礼子のことだろ?この前もカメラ付きで飲んだよ。それがどうした?」 「本当に仲良いんだねぇ~、あんたたち」 「まあ、長年関わってるし多少はな───」  母は、確認は終わったと言わんばかりに寝っ転がる俺をまたいで夕食の後片付けをしに台所に向かって行った。  確かに、俺と礼子の仲はかなり親密だ。通常、高校卒業時に自然消滅するカップルが大半である。そんな中、大学生になりそれぞれが他県に移動したにも関わらず、互いの意思で連絡を取っているのは珍しい例なのかも知れない。  ただ、俺と礼子の仲は付き合い始める前から既に長く関わっていたため、付き合い始めた後も何か変わるということはなかった。  意図的にデートを計画することはしなかったし、弁当を一緒に食べるくらいはしたものの、それは付き合う前から行っていたので特別なことでもなんでもなかった。  先日の飲み会だって計画していたわけではなく、電話をしていたら互いに暇だからと自然とそういう流れになっただけだった。  ただ、先日の場合は礼子も大学のある県から地元に帰省していたのだから、直接会って飲めばよかったのでは?とも思う。コロナウイルスの流行によってオンラインに馴染みすぎたのかも知れない。  次回は居酒屋にでも誘おう。  半ばウトウトしながらそんなことを考えていたら、突然手元の携帯がなった。  着信を見ると礼子からだった。俺はそのまま電話に出たが、電話越しに礼子の何か早く伝えたい様子が伝わって来た。
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