助手席

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 「お前も大事な人が隣に座ってたら分かるよ、ブレーキの踏み方ってやつが───」  免許取りたての新人ドライバーにいったい何を求めているのだろう?  親父の悟ったような口調も相まって、俺を苛立たせる。 「はいはい、わかりました。教官殿。」 「つれない奴だなぁ。当時は婚約者だったお前の母さんが隣に乗り始めたころは、今よりもずっと丁寧なブレーキをしたもんさ。それが母さんを惚れさせたんだろうよ!」  この男はいったい何が言いたいんだ。中年にもなって惚気ているのか? 「親父、いい加減にしろよ!親の馴れ初めなんか子供が一番聞きたくない話なんだよ!」  俺はそう言うと、赤信号を確認すると同時にブレーキペダルに一気に体重をかけた。怒りに任せて踏んだため、盛大な急ブレーキとなり親父の体が前方に大きく押し出された。 「はぁ~、分かったよ。これ以上は話さないよ。けどな、結婚する相手を隣に乗せる時くらいは右足に全神経を集中させてもいいと思うぞ?まあ、自然とそうなるだろうがね───」  これ以上息子と会話を継続させることは不可能だと感じたのか、親父がそれ以上話しかけてくることはなかった。
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