まどろむ暁、滲んで消える。

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 「花火」  「うん」  「もう疲れた」  「うん」  「疲れちゃった・・・」  「うん」  「・・・もう・・・死んでも良いよね・・・」  俯く私に花火が手を握る。  「雪・・・雪は、私が助けるよ」  その夜、布団にくるまっていたら、兄が入ってきた。  変わらず、馬乗りになって。  布団を剥がした瞬間、手に握っていた包丁を突き上げた。  包丁は兄の喉に突き刺さっていた。  「・・・は?」  口から血が流れ落ちる様子に兄は戸惑い、間抜けな声を上げる。  包丁を引き抜くと、喉から血が吹き出した。  兄が喉を押さえながら這いつくばり、扉へ向かうので、馬乗りになり背中に何度も包丁を突き刺した。  声を上げようにも、喉を刺された兄は上手く声を出せず、動かなくなるまで、カエルのような鳴き声を上げ続けた。  両親の寝室へ向かうと、母だけが寝ていた。  横向きに静かに寝息を立てている、その喉に包丁を突き刺した。  母は目を開けこちらを見る。その目は驚きと痛みで揺れていた。  「お母さん・・・どうして助けてくれなかったの?」  母は答えず、血が吹き出す喉を手で押さえながらベッドから出ようとする。  その母の肩を掴みベッドに押し付け、何度も包丁を突き刺した。  リビングに行くと、ローテーブルに空のアルコール缶が転がる中、父がソファーで寝ていた。  仰向けで呑気に大イビキをかいているその姿に、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。  包丁を握る手が強くなる。  大きく振りかざし、喉に突き刺す。  父の目が大きく見開く。  自分の喉元を見ると、包丁が深々と突き刺さっている。  包丁の柄を両手で掴み、勢いよく引き抜く。  血が噴水のように吹き出した。  父が喉を押さえながらのたうち回る。そんな父に馬乗りになり、包丁を何度も突き刺す。  父が力を振り絞り、突き飛ばす。  ローテーブルに背中をぶつけ、咳き込む。  喉を押さえながら父が近付き、蹴り飛ばす。  蹲っているとまた父が近付いてくる。  包丁が離れた所に転がっている。  父が肩を掴んできたので、近くにあった雑誌で顔を殴る。  よろけた父の背後に周り、棚にあった置時計で後頭部を何度か殴りつけた。  父が倒れる。  包丁を拾い父の元に戻ると、父がこちらを見上げている。  「な・・・ん・・・で・・・」  そう力無く言う父に、悟った。  もう、こいつは変わらない。という事を。  包丁を両手で持ち、父が動かなくなるまで何度も刺した。  「・・・終わったよ。雪」  「・・・」  「・・・もう大丈夫だよ」  「・・・」  「雪・・・これからは私がずっと側にいる」  「・・・ずっと?」  「うん。ずっと。死ぬまで」  ゆっくり洗面所まで歩いて行く。  「雪と私は、一心同体だよ」  鏡には、血塗れの雪が映っていた。
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