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「解離性同一性障害は立派な症例です」
長瀬が四ツ谷に語る。
「雪ちゃんの場合、もう一人の人格を作る事によって自我を保っていたんです。・・・劣悪な環境を生きていく為に」
長瀬が手を強く握る。
そして悲しさと悔しさが混じったような顔をしている。
「・・・あの娘も被害者なんです」
四ツ谷は黙って聞いていたが、長瀬を見据える。
「情状酌量の余地があるのは分かっています。ですが、強盗の仕業という虚偽の証言が、責任能力があったとして認識されるかもしれません」
「どういう事です?」
「心神喪失の錯乱状態による犯行ではなく、明確な殺意を持っての犯行かもしれない。という事です」
長瀬は黙った。
「突発的ではなく計画的。もう1つの人格というのも、信憑性に欠けるかも・・・」
「・・・なんでそんな事、言えるんですか」
長瀬は拳を震わせながら詰めよった。
「・・・あなたにはっ、人としての情は無いんですかっ!?」
「あなた方が患者さんを守るのと同様に、私達には法を守る責任があります」
長瀬が四ツ谷を睨む。四ツ谷も長瀬を睨み返す。
長瀬が踵を返す。
四ツ谷が溜め息をついた。
「こっちだって人間だよ・・・。
あの娘達も。
だから苦しいんだよ・・・」
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