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「話しが違います!こんな風に追い詰めるなんて・・・」
「先生・・・我々も仕事なんです。一刻も早く事件の詳細を確かめないと」
「ですが・・・!」
誰もいない部屋で、長瀬と四ツ谷と知らない男達が話している。
「次こそはちゃんと話してもらいます。
彼女の・・・いえ、彼女達の事を」
目を開けると、病室だった。
慣れ親しんだ、いつもの天井。
「おはよ、雪」
「・・・おはよ、花火」
「・・・大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ・・・ちょっと、びっくりしただけ」
「・・・雪」
「ねぇ、花火」
「何?」
「私に何か、隠してる事ある?」
一瞬の静寂。
でも花火は優しく、ハッキリと言った。
「何も無いよ」
「・・・本当に?」
「本当だよ。私と雪は一心同体だよ?何も隠してないし、やましい事もない」
そう言って雪の頬を撫でる花火。
雪はほっとしたのか、笑った。
「はい、花火ちゃん。今日も問題無しね」
「はーい」
いつもの花火の検診。雪は黙っていた。
「雪ちゃん、ちょっと良い?」
長瀬が病室に戻ろうとする雪を呼び止める。
「この間は・・・ごめんなさい」
「え?」
「・・・カウンセリングで、その・・・」
「あぁ・・・うん。大丈夫だよ。長瀬先生が謝る事じゃないし」
「それで、その・・・もうカウンセリングは」
「ねぇ、先生」
「え?」
「先生は私に何か、隠している事ある?」
一瞬の静寂。
でも長瀬も花火と同じように言った。
「・・・何も隠してないよ」
「本当に?」
「えぇ、本当よ」
微笑む長瀬に、雪はそれ以上追及しなかった。
頭痛がする。鈍く静かに響く。
雪は病室に戻らず、外の庭園に出た。院内だが緑が多くて静かだ。他の患者も居らず、雪だけの庭だった。
花壇には色鮮やかなパンジーが咲いていた。
雪が屈んで眺めていると、脳裏に何かが過る。
小さな頃、どこかへ出掛けた時に見た景色に似ている。そこには他にも誰かが立っていた。
顔は鉛筆で黒く塗り潰されてわからない。
3人いる。
私の事を呼んでいる?
違う。誰?誰を呼んでいる?
頭痛が激しくなり、地面に蹲る雪。
「大丈夫ですか?」
声をかけられ振り返ると、黒いスーツを着た男が立っていて、雪に手を伸ばす。
雪の心臓が跳ね、身体中の血液が逆流する。
「・・・あっ、ああ、っ!!っ!!」
「あの、だいじょう」
「いやぁあぁぁああぁぁっ!!!!!」
雪が断末魔のような悲鳴を上げた。
その顔は恐怖と嫌悪にまみれていた。
「あの!ちょっ、落ち着いてっ・・・!!」
「いや!!いや!!いやあああ!!!やめて!!やめてぇ!!来ないでぇぇぇ!!!」
「どうしたの・・・雪さん!?」
「雪ちゃん!!」
四ツ谷が走って来た。悲鳴を聞いた長瀬と共に。
「やあぁぁあぁ!!やだぁ!はなっ、花火!!花火助けて!!花火ーーーっ!!!」
「雪さん、落ち着いて!」
「刑事さん!!あれほど男性は近付けないでと言ったのに!!」
「す、すいません!!具合が悪そうだったので、つい声を・・・!!」
錯乱する雪を宥める長瀬の怒鳴り声に、渋い顔をする四ツ谷達。
ふっ、と電池が切れたかのように静かになる。
四ツ谷達が目を向ける。
雪を掴んでいた長瀬の手を掴み返す。
「花火・・・ちゃん?」
雪の頬を撫でながら花火が立っていた。
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