まどろむ暁、滲んで消える。

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 「何でこんな事も出来ねぇんだよ!!」  「ご、ごめっ、なさいっ・・・!!」  父は化け物だった。  外では皆から『素敵なお父さん』『優しいお父さん』と言われていたけど、私には理解出来なかった。  「クズは飯抜きだ、わかったな?   おい!こいつに晩飯与えんなよ」  「ちょっと・・・もう少し静かにやってよ。近所にバレたらどうすんのよ」  母は卑怯だった。  外では『優しく子ども思いなお母さん』と言われていたが、父の暴力から逃れる為に私を盾にしていた。  「母さん、俺明日は塾の友達と外で食べてくるから」  兄は鬼畜だった。  外では『優等生で優秀なお兄さん』と言われていたが、私の事なんか見えていないかのように過ごしている。  お風呂に入りながら、鏡に映った自分を見る。  白く細い身体に紫のアザが模様のように浮き出ている。シャワーを浴びる度に滲みる。  「あいつらマジでクズ」  顔を上げると、花火がこちらを見ていた。  「花火・・・」  「大丈夫・・・?」  「うん・・・もう慣れた」  「何も出来なくてごめん・・・」  「いいの。花火はそばにいてくれるだけでいいの」  この地獄を、2人で生きていく。  自室で眠っていると、扉が開く音がした。  人の気配を感じて目を開けると、兄が馬乗りになっていた。  声を上げようとすると、手で口を覆われる。  「声出したら父さんと母さんにバラすぞ」  私は震えて何も出来ないまま、服を脱がされた。  学校は好きだった。  別に勉強が好きなわけでも、友達がいるわけでもない。  ただ家にいなくて良いだけで、心が軽かった。  だから、放課後になるのが怖かった。  お酒を飲むと更に手が付けられなくなる父と無関心な母に今日も殴られ、夜布団にくるまっていると、扉が開いた。  背筋と指先が冷たくなってくる。  布団を剥がされる。馬乗りになった兄がいた。  私は怖かったが、初めて抵抗した。  服を脱がせようとする兄を突飛ばし、部屋から出ようとする。だが兄に足を掴まれ、倒される。  顔を殴られた。  父も母も顔だけは殴らなかったのに。  鼻が熱い。暗くてわからないが、多分鼻血が出ている。  兄に服を脱がされた瞬間、父が部屋に入ってきた。  沈黙が流れる。  無言の父が私達を見下ろしている。  私は助けを請おうとすると、父が扉を閉めて近付いてくる。  そして私の腕を掴み、言った。  「大人しくしてろ」  それ以来、夜眠る事が出来なくなった。
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