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1.お留守番
その日、狐乃音は家で一人、お留守番をしていた。
「……」
小さな彼女が着ている、紅白の鮮やかな巫女装束は、襷が解かれたばかり。
お掃除とお洗濯は終わったし、お昼ご飯はお兄さんが用意してくれたものを食べ終えた。
お兄さんは、仕事の打ち合わせや取材があるとのことで、お出かけをしていったのだった。
なんでも。今日はもう、帰らないそうな。
忙しいお兄さんが出かける際に、狐乃音は『お気をつけて、いってらっしゃいませ』と、手を振ったものだ。
「なんだか少し、眠たくなってきちゃいました」
家事だけでなく、狐乃音は毎日お勉強もやっていた。とても真面目に。
お兄さんが用意してくれた、タブレット教材。
そんなものを使って、日本語の読み書きや、算数なんかを日々勉強した。
狐乃音は立場が立場なだけに、学校に通うことが困難なのだから。
小学一年生か、あるいは未就学児かといったような、小さな見た目の彼女だけど。これでも不思議な力を持つ、稲荷神なのだ。
ぴょこぴょこ動く狐耳も、ふっさふさのボリュームたっぷりな狐耳も、その証拠。
(お勉強、楽しいです)
知らないことを知っていく。それがとてもすばらしいことだと、狐乃音はすぐに理解した。
本日の分を終わらせたので、狐乃音は窓辺に座布団を敷き、一人のんびりとしていた。
差し込む日差しは優しくて、ついうとうとしてしまう。
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