2.どこかで見たような光景

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

2.どこかで見たような光景

「うきゅ?」  気がついたら狐乃音は、狭い箱のようなものの中にいた。 「え? え?」  箱の前は、ドアのようになっていた。はてさて、一体ここはどこなのだろうか?  それに、何故だか辺りはざわざわと騒がしい。 「な、何が始まるのですか?」  狐乃音が不安な思いを呟くと、右隣から声が聞こえた。……否。正確には、上の方からだ。 「あぁ? そんなん決まってんだろ」  馬のような耳をした長身の美人が、いつの間にか、上から覗きこんでいたのだ。  そして彼女はおもむろに、狐乃音に白い歯を見せニカっと笑いながら、勇ましく言った。グッドサインを決めながら。 「第三次大戦だ!」 「え?」  まるで、わけがわからない答えだ。  しかし、落ちついて考えている暇は、なかった。 「うきゅっ!?」  次の瞬間。がしゃんっと大きな音をたてながら、前方のドアが開いた。  開けた視界には、緑色の、芝生が敷き詰められた道。  向こうの方には、とても大きな観客席と、それを埋め尽くす大群衆が見える。  そうかと思えば、ずどどどどと、すさまじい勢いで、横一列にいた誰もが駆けだしていた。  場の雰囲気に飲まれ、狐乃音も同じように駆け始めてしまった。 「うきゅううううううっ!?」  横一列になってスタート。 (も、もしかしてこれは、お馬さんがする、駆けっこなのでは!?)  狐乃音がそう思っていると、どこからか、アナウンサーのような男性の声が聞こえてきた。とても早口だけど、明瞭な声で聞き取りやすい。 『各馬一斉にスタートを切りました! 先頭からコノネマックススピード、続いてマグロマックイーン、ブレッドシャワー、ヤマトスカーレット、ノイジースズカ、トウカイコウテイ、アグネスダクオン、ハッピーミート、スペツナズウィーク、トーカクジョーダン、ナツクラクラと続いています。最後尾にはいつも通りのシルバーシップ!』 「うきゅっ!? だだだ、誰がこのねまっくすすぴーどですか!? それにそれに、私はお馬さんじゃなくて狐……」 「はっはっはっ! 細けぇこたぁいーんだよ!」  先程のお姉さんが走りながら、狐乃音の問いに答えてくれた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!