浅見川市怪奇譚11

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「ウェディングドレスを着てみたいですか?」 「え、私ですか?」  私はデザイナーの卵だ。特に、ウェディングドレスとタキシードをデザインするのが夢。  趣味という言葉を知る前から結婚情報誌の切り抜きを集めたり、カタログを見たりするのが日課。中学生になると服飾デザイン系の学校に進めるようにと意識し始め、ノートにドレスやタキシードのデザインを書き溜めている。ボロボロの落書き帳も数に含めるならば、30冊はデザインに費やした。部活は手芸部一本。ビニールや100均のフェルト、ビーズを材料に使ったドレスを演劇部に納めたのは去年の話。人生初のドレス作りだった。演劇の舞台練習を見学した時、ドレスしか見ていなかったせいで苦笑いされたのを覚えている。  17歳のゴールデンウィーク。私はショッピングモールにウェディングドレスを展示するということを聞きつけ、自転車に飛び乗った。会場ではウェディングドレスとタキシードを着たカップルのマネキンたちが仲睦まじいポーズをとっている。  シルバーを織り込んだ美しい光沢のドレスがひときわ目立っていた。オフホワイトの一見落ち着いたドレスも、よく見ると金糸で繊細な刺繍が施され、なんとも豪華。子供にとってウェディングドレスをじっくり見る場面は少ない。私は食い入るようにドレスを見つめ、会場の人に許可を取ってスマホで撮り、貴重な機会を今後に生かすべく必死になっていると急に話しかけられた。夢中だった私は、意図を汲み損ねてオウム返しに尋ねる。 「ドレスを着てみたいか? 私に言ったんですか?」 「そうです。あなたに言いました。ずっとドレスを見ているので、お好きなのかなと思いまして」 「ドレスは大好きですけど」
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