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隣に大人の男性がいた。25、6才だろうか。つま先一つ分程度、密かに下がって見る。背が高い。175㎝は越えているだろう。うちの父より大きそうだから。その男性が軽く腰を折って、私に目線を合わせている。ドギマギしてしまって目を逸らした。チラ見でわかるほど綺麗な顔だ。こんな顔を前にしたらクラスの女子はキャーキャー言うだろうし、私も直視できない。それこそ『実はモデルをしています』と言われても納得してしまうだろう。
「実は、若い女性で、仕事のお手伝いをしてくれる人を探しているんです。少しお話させていただけませんか?」
「モデルですか? もっとかわいい子に声をかけたほうが」
「いえいえ、あなたのように落ち着いている方のほうが良いんです」
男性の容姿に引っ張られて思わず出た『モデル』という単語を一笑に付されなかったことが予想外で、私の心臓は一向に落ち着きそうにない。私は恐る恐る男性を見上げた。男性は優しそうに微笑んでいて、ゆっくりと話しかけてくれる。学校の男子たちとは違う、いいにおいがした。香水だろうか。スーツ姿と整えられた髪がデキル大人という感じで、ぼんやりしてしまう。この人がタキシードを着たら、きっとものすごくカッコいいだろう。きっと純白もしくは銀の光沢をもつグレーのタキシードが似合う。
「もし、お話を聞いてもらえるなら、あちらの喫茶店でお茶でも如何でしょうか」
のぼせてしまった私は、思わず頷いてしまった。喉がカラカラで、冷たいものが欲しかった。
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