6人が本棚に入れています
本棚に追加
「花嫁の代役?」
「予行演習みたいなもので。若い花嫁様なのですが、諸事情でブライダルハウスに当日まで来ることができないんですよ。それで、年齢も背格好も似ている女性を探していたんです」
「私、その人に似てるんですか?」
「ええ。こちらがその花嫁様の写真です」
男性は写真を見せてくれた。真面目そうな少女が、黄緑色の細い葉をつけた、ろうそくの炎のような形の木――イトスギを背に笑っている。化粧っ気のない顔に内気そうな微笑みを浮かべた彼女が結婚するとは全く思えなかった。顔立ちこそ違うが、確かに私と骨格や背格好、肌の色は似ている。きっと同じ髪型にして後姿だけ見たら間違われるレベルだろう。
そして、似ているからこそ、結婚や花嫁という単語に現実味が無い。慎重そうな彼女が、17歳で結婚。なんだか妙だ。
「花嫁様ご家族と一緒に、ドレス選びと式のリハーサルをこなしていただきます。花嫁様の代わりに、ね」
「そんな重要な役割、私でいいんですか?」
「代役がご家族の希望であり、そういうご依頼なのです。しかし、当たり前のことですが、私どもの会社には花嫁様に似た少女はおりません。ですので、求人を出していたのですが、代役をこなせる方は応募してこなかったのです。困り果てつつ、業務をしていたのですが……」
そこで男性が私の目をしっかりと見つめてきた。真剣な目で見られると、居心地が悪くなってしまう。私はもじもじと手をテーブルの下で動かした。
「あなたを見た瞬間、あなたが適任だと直感しました。人助けと思って、お手伝いしていただけないでしょうか」
人助けは良いことだ。でも、私はモデルなんてしたこともないし、考えたこともない。ドレスは重たくて、着ているだけでも体力を持っていかれる。しかし、ウェディングドレスを着られるタイミングなんてそうそうない。貴重な勉強ができるだろう。
「もちろん、アルバイトということで、お給料は支払わせてもらいます。ドレス選びの時給は2千円、リハーサルの時給は1万円で如何でしょうか?」
最初のコメントを投稿しよう!