前夜祭

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ああ、鋼の理性だったはずなのに、泣きそう。 自分の最低具合にびっくりする。 泣かないように、大きく目を開けて、宙をみた。 「柚、こっち」 あの目撃現場のちょっと手前に引っ張られていく。 あぁ、やっぱりココ、人目に付きにくいもん。 渡り廊下のあの角度からは、ばっちり見えるのに。 「どうした? 今日、本気で」 「朝。龍之介、ココにいた」 「は? え? ……あ、ああ」 私が何を聞こうとしたか分かったらしい。 「んで? それがどうした?」 興味範囲で聞いてくんなよって、機嫌が悪くなる可能性すらあったのを忘れていた。 「どうもしないけど……」 「ん、どうもしない。柚には関係ない」 思ったより、優しく、そっと言われて、その言葉が心に沈んでいった。 分かってる。 関係ない。 分かってる。 瞬きしたら、駄目だ。 もう、早く、音楽室に行こう。 「うん。ごめん」
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