文化祭

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しっかり時間を確認しているのかと思ったら、そのまま私の方を見たまま、口を開いた。 「実際、今も本当にしょうもない人生で、好きな子にぜんぜんまともに相手にされないとか、その子が他の奴を見てるとか、最悪です。それでも、たまにその子がこっちを見て笑うとか、泣くとか、くだらないことに、いちいち一喜一憂してる。俺の人生は、そんな平凡な、ありきたりな人生です。」 え? アドリブ。 こっちを見たまま、話していた。 恋愛の話に、生徒が少しざわざわとした。 「ただそれでも、生きる。」 龍之介のハッキリとした声が体育館のざわめきを切った。 すらすらと、スピーチの原稿に戻っていく。 スムーズ過ぎて、アドリブだと気が付いた人は少ないと思うけれど、私は、心臓が飛び出るかと思った。 頬がどうしようなく、熱い。 「……日本の自殺者は20−−年、2万−−ーー人と、世界的に見ても多く、若者の自殺も増加しているそうです。人が人生の終わりを選ばざる得なくなった理由はきっと様々だから、そういう選択をした人にどうこう言うつもりはありません。 ただ僕は、どんなにくだらない、しょうもない、這いつくばるような人生でも、自分で死を選ばない。 天国の親友にこれを勝手に約束しても、理不尽だろうから、親友を亡くして、泣いてたあの時の、10歳の僕に約束します。 僕は、最後まで生きる。」 そういって、沸きあがった大きな拍手に堂々と礼をした。 時間内にピッタリ終えて、席に着いた。 私は、次の係にタイミングのカードを渡しながら、ステージ上の龍之介をただ見つめていた。 アドリブの間、私を見ていた。 「聞いとけ」の意味がわかって、心臓が痛いくらいにはねている。
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