文化祭

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「はい、皆様、オーケストラ部、文化祭公演にようこそお越しくださいました」 安藤先輩が指揮台に立って、挨拶を始めた。 「……それでは顧問の鈴木先生に指揮をお願いしたいと思います」 安藤先輩がチェロへ下がって、鈴木先生が指揮台に上がる。 バイオリンを首に挟んで、弓を持つ。 それぞれ、少し音出して、準備した。 あ。 龍之介。 来てる。 入口脇の体育の壁に寄りかかっている。 トントンっと、指揮棒がなって、指揮台に顔を上げた。 サッと振り上げられた指揮棒に、部員全員が一瞬、息を吸ったように感じた。 音が弾けて、あとはただ譜面と指揮棒と、自分の指先しかない。 必死。 正直、変な音さえ出さなければそれで良い。 どうか最後までまともに弾きたい。 一年生の発表曲の後、四重奏を挟んで、もう2曲。 ただ緊張の中、弾くのが精一杯だった。
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