文化祭

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「はぁー。スピーチ出た甲斐があったわ」 ふっと緊張が解けたのか、龍之介は伸びをすると、体育館を背に、座りこんだ。 「え? それだけじゃないでしょ? 拓君と話せた?」 「ん。話した。あいつ、今度紹介する。学校来る気があるか、分かんないけど」 「そっか。うん、紹介して」 私も隣に座ると、龍之介がこっちを見た。 「言っとくけど、俺がスピーチ出たの、柚が係だったの、結構大きいから」 「え?」 プールでもそう言っていたけど、ふざけているんだと思った。 「去年、新井がでて、柚、すごく仲良くなってたろ?」 「うん、まぁ、それまでは新井君とはあんまりしゃべってなかったね」 「俺、それなりに、嫉妬深いから」 それだけ言って、笑った。 一年前ですけど……。 入学して、夏ぐらい。 ちょうど、色々ちょっかい出してきた頃の後か。 思いっきり先生と喧嘩してた時とかの後。 キレて、無視されて、怖い人だと思った頃。 謎だらけ。 「なんで? あ、なんでって、別にないかもだけど。もしかして、去年から、もう好きでいてくれた?」 「んー、そう。ちっさくて可愛いと思ってた」 可愛い。 ボっと赤くなる。 嫌だ、なんか、センサー、壊れてる。 「ははは。照れた?」 あぁ、もう。 「それに、柚、去年、プール開きで、始まる前、こっそり深呼吸してた。泳げないんかなぁーとおもったら、別に泳げるじゃん。……で、胸のに気が付いた」 あ。 そうだった。 高校になって、傷を知らない新しい人達の前に出る時だから、多分緊張してた。 「ちっさいのに、戦ってるみたいに見えて、なんか、なんかなぁ。勇気もらった」 「ん」 プールかぁ。 同じ頃、拓君の事とか、色々思うとこが龍之介にもあったんだろうな。
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