後夜祭

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一瞬、ふっと笑ったと思ったのに、龍之介は片手を上げると目元を覆った。 「やばい。ちょっとごめん」 ぱたっと龍之介が屋根の上にそのまま仰向けに倒れた。 両手で顔を覆ってしまっている。 あれ? 「龍?」 私、ファーストキスだったんだけども。 何かおかしかった? 「ごめん、柚」 え? 「ぁああああ!!」 何か吹っ切るようにいきなり叫ぶと、手で顔を拭いた。 え? 龍之介? 泣いた? 「龍?」 「最高だなっと思って」 そう言って、身体を起こすと、へらっと笑った。 最高なのに、泣くの? 「スピーチ出た甲斐があったなと思ったら、一瞬、頭がちょっとまずいほうに行った。最近、ちょっと拓と話したり、色々、昔の事考える事、多かったから。悪りぃ」 「大丈夫?」 「ん。嬉しすぎた! おかしいな」 へらっと笑っている。 何を考えたんだろう。 「龍之介?」 教えてほしくて、龍之介を見つめた。 「ん。ごめん。俺は生きてて幸せだなっと思った。それだけ」 あ。 ああ。 そうか。 恋もキスも生きているから。 龍之介は幸せだと、生きてない人を思う事があるのか。 腕を伸ばして、龍之介をぎゅっと抱きしめた。
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