片想いやら

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片想いやら

「というわけで、ここは過去完了形だから……」 授業に集中しようとしても、酒井先生の声が耳の上を掠めて飛んでいく。 頭に入ってこない。 6月なのに、もう暑い。 暑くて、うざい。 校庭には、この暑い中、水泳の授業は始まってないから、三年生が体育の授業に出ている。 先輩もいるかなぁ、と校庭を眺めるけど、窓枠で私からは半分しか見えない。 当てられて、立ち上がれば、ちらっと見えるかもしれない。 最低限の板書をノートに取りながら、頭の中がぜんぜん違うところに飛んでいくのが止められない。 片思いとストーカーの差はなんだろうか。 誕生日とかだけじゃなく、時間割を知っていたら、ストーカーっぽいかもしれない。 後をつけたりしなかったらセーフだろうか? 窓の外をもう一度見ても、先輩は見つけられない。 私の視力では無理があるのかも。 つーっと何か細い物が背中を伝う。 くすぐったい。 暇な龍之介がペンでふざけているらしい。 あいつが後ろの席になってから、ろくな事がない。 授業中で私が文句を言えない事をいい事に、背中に文字か何かを書いて遊んでいる。 足を踏むか、蹴ってやりたい。 だけど、後ろの席じゃ、それもできない。 何て書いているのか、分かんないし。 龍之介が何かぼそっと言って、斜め後ろの甘夏(かな)ちゃんがくすっと笑った。 あ、絶対に「アホ」とか「バカ」とか書いてる。 こっちは、くすぐったいの、我慢してるのに。
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