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「水城、ちょっといいか?」
放課後、担任で現国の金子先生に呼ばれて、国語科の研究室に行った。
「水城、スピーチコンテストの担当だろ?」
金子先生が、デスクの上に置かれた「2-B」と書かれたメモがついた小論文の束を見ながら、私に聞く。
「はい。そうですけど」
私は図書委員だから、自動的に、スピーチコンテストの担当になる。
参加者と練習したり、リハーサルしたりする。
もしかして、面倒だからこの束を読んで選べとか、お前が出ろだとか言われるのか? 係の私は出れませんよ、と言おうと思ったら、思わぬことを言われた。
「2-Bの出場者、上谷にするから」
え?
龍之介?
「意外だろ?」
何にも言えなくなっている私を見て、金子先生が笑った。
「読むか?」
「えっ。あ、はい」
「上谷龍之介」と書かれた小論文を手渡されて、信じられない気持ちのまま、そのまま読み始めた。
荒っぽい龍之介の字。
提出したこと自体、すごい。
選ばれるって、どういうことだろうか、と読み進めて、困った。
規定ギリギリの文字数の短いものだけど、良かった。
スピーチにするのに、文の構成のあれこれはあるにしろ、良かった。
すこし泣きそうになって、「あ、はい、いいですね」と慌てて原稿用紙を返した。
「手直し、するけど。2-Bは、これでいくわ。ただ、上谷、出る気があるのかわからん。さっき、本人には言っといたけど、やる気があるんかイマイチわからんわ。あいつ、いきなり出ないって言う可能性もあるから、水城、頼むよ」
「あ、はい」
書いたんだったら、出るだろうと思うけど、龍之介の事だから、これを人前で読む気はないと言うかもしれない。
龍之介をスピーチコンテストに出す。
それが私の仕事になった。
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