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龍之介の小論文は、さらけ出してた。
私にできなかったことをしてた。
『龍之介、今、どこにいる?』
携帯でメッセージを送ると、『帰るとこ。下駄箱』という返事が来た。
『ちょっと待ってて』
そのまま早足で下駄箱へ向かうと、下駄箱に寄りかかって、だるそうに待っている。
「龍之介!」
「はい、柚、なに?」
ほぼ走って近寄っていった私に返事をすると、少し笑った。
「どした?」
龍之介の近くに立つと、背の高い龍は私を見下ろすようになる。
「えっと、さっき、金子先生が、龍之介がスピーチコンテスト出場だって言うから」
「あ、ああ。聞いた」
少し照れくさいのか、龍之介は耳の上の少し茶色い髪の毛の先を触った。
「私、図書委員だから、係だから、頑張ろうね」
思わず、頑張ろうね、なんて、青春ドラマみたいなこと言っちゃったことに気がついて、急に恥ずかしくなった。
「知ってる。柚、もう読んだ?」
あ。読んだ。
「うん。読ませてもらった。先生、これから龍之介と手直しするって言ってたけど、すでにすごく良かった」
龍之介は、じっと私を見ていたけど、私の感想を聞いて、緊張を解いたように、ふっと笑った。
「あっそ。お気に召して良かったわ」
お気に召すとか、そういう事じゃない。
本当はもっと言いたい事がある。
「龍之介、そういうんじゃなくて、ほんとに良かった」
「はいはい。金子、呼んでた? 直すの、また明日以降でいいんだろ?」
あ、良かった。
やる気はある。
いつもの龍之介なのに、あの小論文のせいか、なんか少し大人に見えた。
「うん。良い」
「ん。柚、部活だろ? じゃな」
クシャっと私の頭をかき混ぜてからふらっと帰っていった。
ああー、これから部活なのに、髪が乱れた。
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