龍の傷

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手直しの案を原稿用紙に書きつけていく。後で龍之介が清書すればいい。嫌なら変えなければいいし。 メモ書きを入れて、顔を上げたら、テーブルに肘をついて、こっちを見ている。 「柚。聞かないの?」 「え?」 何? 「色々」 龍之介がちらっと原稿用紙に視線を向けた。 この事故に関して聞かないのか?ということか。 「あぁ。これ、よく書けてるし、今は良い」 聞いてみたい事はある気がするけど、周りには、他の生徒がちらほら、自習したり、本を選んでいる。 ここで聞きたいとは思えなかった。 「あっそう」 「はい、これで一回、清書してきて」 選考会は再来週だ。 国語科の先生と図書委員で参加者を一度ふるいにかける。 そこで各学年3人に絞って、文化祭で全校発表になるのが例年のパターンだ。 選考会である程度、しっかり読み上げできないと落ちる。 この内容を読んでしまったら、龍に受かってほしいと思っている。 龍之介、ちゃんとやってくれるだろうか。 「んー、分かった」 立ち上がって、図書館をでると、龍之介を見上げた。 やっぱり気になる事はあるかもしれない。 単なる好奇心なのかもしれないけど、他の人に聞くより、本人に聞きたい。 「ねぇ、龍之介。……やっぱり、今度、話して。龍から聞きたい。今度でいいし」 「あ? ああ。良いけど」 「ん。じゃ、部活行くね」 音楽室の方へ身体を向けて、手を振った。 「柚」 呼び止められて、振り向くと、こっちを見ているだけで、何にも言わない。 「なに?」 ちょっと視線が真剣で、なんだか、困る、と思ったら、「……ありがと」と言った。 なんか、龍之介が、素直。 珍しい。 あられが降りそう。
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