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「龍之介、今度やったら、本当に怒る」
授業終了のチャイムが鳴って、酒井先生が教室を出たとたん、後ろを振り返って抗議した。
「え? なにを?」
教科書を雑に鞄につっこんで、笑っている。
白を切るつもりらしい。
「なんか背中に書いてたやつ!」
どうせ、くだらないこと、書いていたくせに。
「ははは。今度、怒るの? 何書いた、俺?」
もう帰るのか、へらへら笑いながら立ち上がっている。背が高い龍之介を見上げると、茶色い毛先が光に透けて見える。
「どうせ、ばか、あほ、とか書いてたでしょ?」
「ん、なに、それ?」
本当になんのことだか、わからないって顔している。
あれ?
「え? ペンか何かで、背中に文字書いてなかった?」
そうじゃなかったら、なんなんだ。
隣の甘夏ちゃんに助けを求めると、彼女も教科書を片付けながら、くすっと笑っているだけで何も言わない。
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