柚の傷

4/32
前へ
/177ページ
次へ
***  その週の現国の後、廊下で金子先生に呼び止められた。 「どう?選考会、あいつ、ちゃんと出そう?」 「あ、多分、はい」 「ならいいけど。よろしくね」 まだ清書した原稿を見ていない。 教室に戻って、席に着くと、机に突っ伏して寝ている龍之介に話しかける。 「龍之介」 「んんー、なに?」 顔を上げると、本気で寝ていたらしく、ほっぺたに教科書の跡が付いている。 「スピーチの原稿、できた?」 「ん。できてる、まぁ」 眠そうに、くしゃくしゃっと髪を直している 「選考会、来週、木曜日の放課後だから、読む練習してる?」 「してない」 だろうな。 そうだろうよ。 「マイクなしだから、練習しとかないと、通らないから、練習しよ」 「まじで?」 すっごくめんどくさそうだ。 じゃあ、出なくていい、とか言われそうだ。 選考会は視聴覚室で読むだけでいいのだけど、本番は体育館だから、その時はプールサイドで端から端まで聞こえるように練習したりする。 そういうの、嫌がりそうだな。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1106人が本棚に入れています
本棚に追加