柚の傷

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部活の終了時間になって、バイオリンをケースに入れて片付ける。 土曜日だから、ケースのほかに、消音器を借りて帰るように、譜面と一緒に鞄に入れた。 安藤先輩がチェロを片付けて、ケースに入れたのを横目で見ると、先輩は携帯で何かチェックしている。 「雨降りそうですか?」 沢田君が先輩に声をかける。 沢田君も貸し出しのチェロを持って帰るから、雨は気になるところだ。 「んー、もうすぐちょっと大丈夫そう。沢田、駅から遠い?」 「あ、駅まで親に迎えに来てもらえるんで、大丈夫です」 「ならいいけど、濡らすなよ。防水ケースだけども、なるべく」 そう言うと、大きなチェロケースを背中に担いだ。 ピコんと、私の携帯にメッセージが来て、チェックすると、龍之介からだった。 『終わった? 終わったんなら、いくけど』 『うん。視聴覚室で』 そうメッセージを打つと、バイオリンケースを持って、音楽室を出た。 安藤先輩たちが、まだ廊下にいる。 「あぁ、柚ちゃん、お疲れ」 安藤先輩が声をかけてくれる。 「お疲れ様です。雨、降らないと良いですね」 「んー、後で降るっぽいけど。梅雨だし、しょうがないけど、運んでいる時に降ったら焦るわ。柚ちゃん、大丈夫? 家、遠いっけ?」 「あ、私の家はそんなに。でも、ちょっとこれから図書委員のスピーチの用事してから帰るんで、その後、降られないと良いんですけど」 傘、あるけど。 バイオリンケースも防水だけど、濡らしたくない。 「あぁ、大変だね。選考会、来週だっけ?」 「そうです」
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