柚の傷

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「あ、俺、一年の時、出ましたよ。選考会落ちでしたけど」 沢田君、そういえばD組で出ていた。 「そうだ!聞いてた!私、一年も図書委員だったから」 沢田君もしっかりしている。選ばれるタイプだ。 「はずっ。聞いてた? 面接みたいで、緊張して、駄目だった」 「ははは。沢田君も良かったと思うけど。他の人が強かったんじゃない?」 沢田君、真面目にやっていた記憶がある。 でも、うちの新井くんがこなれていて、あと二人、エピソードの強い子がいた。 「俺も一年の時に出たよ。」 さすが安藤先輩。 「なに話したんですか?」 「楽。あの、楽って、楽しいってテーマだったら、祖父とチェロの事。俺、チェロしかない」 ははは、と笑った。 「何かあるって、すごく良いですよ」 何かしら特別があるだけ、すごいんだから、いい。 「うん。先輩のチェロ、すごいです」 沢田君もそう頷いた。 安藤先輩のお祖父さんはプロのチェロ奏者だったらしい。先輩のスピーチ、良かっただろうな。 「ははは、ありがと」 「柚!」 名前を呼ばれた方を見たら、もう龍之介が来ていた。部活からそのまま来たらしく、ジャージ姿で立っている。 「あ。龍、今、行く!」 先輩と沢田君に、お疲れ様です、とお辞儀をした。 「ん、じゃね、柚ちゃん。雨、気をつけて」 「はい!」
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