柚の傷

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先輩達に手を振って、龍之介に向き直ると待たせたせいでちょっと機嫌が悪いようだった。 ちょっとしか待たせてないのに、気が短い男だ。 「お待たせ。空いてるといいんだけど」 雲行きの怪しい顔をしている龍を無視して、視聴覚室のドアをちょこっと開けて中を確認して、空いているようだったので開けた。 「空いてた! 入ろう?」 階段状の席になっていて、少し普通の教室より広いので、選考会に使われる。 「機嫌、良いね」 嫌味のように言われた。 だって、安藤先輩とおしゃべりしたとこだし。 機嫌もよくなる。 「そう?」 バイオリンケースとカバンを机の上に置く。 頬が緩む。 「そんなに良いか?」 え? 龍之介を見上げた。 私を見下ろしている。
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