柚の傷

10/32
前へ
/177ページ
次へ
もしかして、これは、すごく機嫌が悪い、かも。 しかも、なんか言いがかり。 「なにが?」 「あいつ」 龍が、廊下の方をちらっと見た。 え。先輩? 好きなのバレてる? 「三年の方だろ?」 言い当てられて、ブワーッといきなり空気が暑くなった気がした。 私が龍之介を待たせて、先輩とヘラヘラしてたせいで機嫌が悪いようだけど、うんと言ったら、龍にからかわれる気がする。 でも否定するのも、嘘つくようで、違う気がする。 「あ。ああ、部長さん」 YesでもNoでもない、いい加減な返事をした。 駄目だ、顔が赤いと思う。 恥ずかしい。 笑われる、と思ったら、龍之介は笑わなかった。 「あっそ」 ……よ、良かった。 「私、後ろの席行くから、読んで」 さっさと話題を変えようと、指示を出しながら、教室の裏に移動する。 審査員の先生がいつも座るくらいの位置に座った。 「龍之介、壇上あがって、読んで。ここらへんに審査員の先生座るから、私、ここで聞くから」
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1106人が本棚に入れています
本棚に追加