柚の傷

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「なんで? 龍、関係ない」 「一年の時から、ずっとじゃん」 そうだけど。 な、何で知っているんでしょう? びっくりしてなんて言っていいのかわからない。 「柚、どうしたいの?」 え? 龍之介が珍しく真剣に優しく聞いた。 「……どうもしたくない。だって、この間まで彼女いたし、もうすぐ受験で忙しくなるもん。振られるだけじゃん」 なんで龍之介が、私の恋の相談に乗ってくれているのか? 急に良い人になっている。 「振られないかもしれない」 「振られなくても、すぐ受験でお別れじゃん」 「は? 卒業まで半年以上あるわ」 そうだけど。 そうですけど。 受験生の勉強の邪魔じゃん。 「ダメ。ぜんぜんそういう風に見られてないもん」 部活の後輩だし、今、変な感じになりたくない。 「だから、今のうちに、さっさと告ってこい」 え? 「だから、今のうち?」 「だから。さっさと振られてきてよ」 いい人だと思ったら大間違いだ。 なんだかよく分かんない悪魔の囁きだった。 「意地悪だなぁ。今、発表会前だし、嫌だよ、振られるの。最後まで楽しく部活したい」 どうして振られるの分かっていて告白しなくちゃいけないんだ。 バカか、こいつ。
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